「でもブルーフロッグを狩るのに、それほど傷がつく物なのかしら?」
僕がやるぞぉ! って気合を入れてたら、さっきまで黙ってお話を聞いてたお母さんがこんなこと言ったんだよね。
「グランリルの方からすると不思議に思うかもしれませんね。でもこの街の冒険者では、比較的綺麗なものでも寝具には使えないくらい傷ついてしまうんですよ」
「まぁ、前にギルドで見たやつらが狩るって言うのなら、どうしてもそうなるだろうなぁ」
お父さんやお母さんだったら、ブルーフロッグなんてそんなに何回も攻撃しなくったってやっつけられるよね?
でも、この街の冒険者さんたちはあんまり強くないから、いっぱい叩いたり斬ったりしないとやっつけられないんだって。
「冒険者さんたち、そんなにダメなの?」
「ああ。体の動きから見て、剣もまともに触れてないと思うぞ。ある程度年齢が言ってるやつらでも、ルディーンが初めて剣を握った時よりうまく振れないんじゃないか?」
お父さんはね、歩いたり体を動かしたりしてるのを見ると、その人がどれくらい上手く動けるかがなんとなく解るんだって。
前に僕と一緒に行った時に見た冒険者さんたちは、筋肉は付いてるし体もおっきいけどうまく動けてなかったから、多分ちょっと硬い皮の魔物相手だったら剣で傷をつけるのにも苦労するんじゃないかなぁってお父さんは言うんだ。
「ルディーンはちゃんとできてるから言わなくても解ってると思うが、剣と言うのはきちっと刃を立ててきれいに振りぬいてやらないと、硬い皮を持った魔物を気づ付ける事は難しいんだ。その上、あまり稼げて無い冒険者は総じて武器の手入れも怠ってるやつが多いからな」
お父さんは僕にそう言うと、ニールンドさんに、ここに持ち込まれるブルーフロッグの背中の皮は、切り傷自体は少ないんじゃないの? って聞いたんだよね。
そしたら、
「よく解りますね。確かにすっぱり切れてるものは少ないから一見きれいに見えるのに、茹でてみると実は使い物にならないってものが多いですね」
だって。
でも、そのせいでかなり慣れた人じゃないと、実際に茹でてみるまで使えるかどうか解んないそうなんだ。
「そうだ。話が出た事ですし、一度実物を見てみます?」
「実物と言うと、傷が付いたブルーフロッグの皮ですか?」
「ええ。カールフェルトさんたちがポイズンフロッグを狩ってくれたおかげで、ありがたい事にこの数日だけで結構なブルーフロッグが持ち込まれてるんですよ」
今まではポイズンフロッグが怖いからって森に行かなかった人たちが、みんなして狩りに出かけるようになったんだって。
でね、そのおかげでブルーフロッグもいっぱい狩られたそうなんだけど、さっきニールンドさんが言った通り背中の皮が使い物になるかどうかはパッと見ただけじゃ解んないでしょ?
だから今はいちいち調べないで、おっきな鍋でみんな茹でてるんだって。
「流石にほとんどのものは使い物にならないんですけど、中には運よくあまり傷を付けずに狩られているものがありますからね」
「なるほど。でもいいんですか? 作業の邪魔になるんじゃ」
「いえいえ。ブルーフロッグが手に入るようになったのはカールフェルトさんたちのおかげなんですから、これくらいお安い御用ですよ」
そんな訳で僕たちは、ニールンドさんに連れられてブルーフロッグの皮を茹でるとこを見に行くことになったんだ。
僕たちが作業場に行くと、ちょうど次の皮をお鍋に入れるとこだったんだよね。
だからニールンドさんは作業してるおじさんに、皮が膨らむところを見てもらいたいから1枚だけ入れてって頼んだんだ。
「ええ、いいですよ」
おじさんが横に置かれてるおっきな皮を一枚とってぐつぐつ行ってる鍋ん中に入れると、1センチくらいだった皮があっという間に5〜6センチくらいに膨らんじゃった。
「すごいや! すぐに膨らんじゃうんだね」
「そうね。皮の専門家から言わせると、ブルーフロッグは火に弱いから、こうする事で体の中までやけどするのを防ぐようになってるんじゃないかって話よ」
そっか。ブルーフロッグの皮って、いろんなのから体を守れるようになってるんだね。
魔物じゃないのにとっても強いってのは、多分こういうので体を守ってるからなんだろうなぁ。
僕がそうやって感心してる間に下茹でが済んだみたい。
作業してたおじさんはおっきなトングみたいなのを鍋に突っ込むと、中から膨らんだブルーフロッグの皮を取り出して僕たちの前にドン! っておいてくれたんだ。
「ああ、これは使いものにならないわね」
でもね、それを見たニールンドさんはちょっとがっかり顔。
見てみると、確かに目の前の皮はデコボコで、マットレスには使えそうになかったんだ。
「それはそうですよ。ここに積んである奴の中で使い物になるようなのは多分殆ど無いですから」
そう言いながら笑うおじさんに、ニールンドさんもそうよねぇ、なんていながら苦笑い。
でもね、僕は目の前にある皮を見て、これってホントに使えないのかなぁ? って思ってたんだ。
「ニールンドさん。こういうのの乾いたやつってある?」
「乾いたのって、使い物にならない皮の?」
僕がそうだよって言うと、ニールンドさんは作業してたおじさんに、使い物にならない皮はどうしてるの? って聞いたんだよね。
そしたら濡れたまんま捨てちゃうって返事が。
「そっか。じゃあさ、この皮、僕が貰って乾かしてもいい?」
「この皮を? いいけど、天日に干しても、ぶ厚いから結構時間がかかるわよ」
「大丈夫だよ。すぐにできるもん」
僕はそう言うと、びしょびその皮に<ドライ>の魔法をかけたんだ。
そしたらカラカラにはならなかったけど、とりあえずは乾いたみたい。
「えっ? ルディーン君、今なにしたの!?」
「魔法で乾かしたんだよ。あのね、いっぱいは無理だけど1枚くらいだったら魔法で乾かした方が早いんだ」
どうやらニールンドさんはドライの魔法を知らなかったみたいで、すっごくびっくりしてたんだ。
でもね、僕はそんな事より早くやってみたい事があったんだよね。
だから乾いた皮を持ってこうとしたんだけど、ちょっと湿ってるから重たくてちっとも動かないんだ。
「お父さん。これ、もって」
「おお、いいぞ」
だからお父さんに手伝ってもらって、僕はその皮を邪魔にならないよう、隅っこに運んでもらったんだ。
でね、目の前の皮をよく見て、何処が膨らんでてどこか硬くなってるのかを、よ〜く調べたんだよね。
「なんだ、ルディーン。これで何か作るつもりか?」
「うん。硬いとこもあるけど、柔らかいとこもいっぱいあるもん。だからこれならいいものが作れるって僕、思うんだ」
お父さんが効いてきたから、僕はこの柔らかいとこだけ使うんだよって教えてあげたんだけど、そしたらニールンドさんが流石に無理なんじゃないかなぁ? だって。
「柔らかい所があるって言っても、こんなに武器で攻撃した後が多くっちゃ、椅子に使うクッションにもならないわよ?」
「確かに。ルディーンが使うにしても、こう傷が多くては使える場所はなさそうだな」
それを聞いたお父さんも、目の前の皮を見てそうだよねって頷いてるんだ。
でもね、多分大丈夫だと思うよ。
だって僕、別に四角いクッションを作ろうって思ってるわけじゃないもん。
前回で終わりかと思った方も多かったと思いますが、ブルーフロッグの背中の皮のお話はまだ続きます。
そりゃそうですよね。こんな不思議素材を前にして、ルディーン君が何も作らないはずないんですからw